【檻の家 -奴隷宣言】(おまけ)

【檻の家 -奴隷宣言】(おまけ)

──恋人の話を伺いたいんですが。
「そうですね」
 と、鈴木は口角を上げて口を開いた。
「私の恋人になりたいならば、まず、恋人として充分に躾けますよ。私にふさわしい存在でなければ、側にはおけませんから。私の望み、好み、そして必要な仕事の中身を全て教えこみます」
──えっと姿形の好みとかありますか?
「スレンダーで、そう……20代くらいの青年が一番好きですが。でも、私が年を経るごとに少し変わっていますから、いつまでそうだとは言えませんね。ああ、敬一くんなんて、とても好みですよ。スレンダーで若々しくて、ちょっと勝ち気で、でも涙もろくて……ふふ、可愛いですよねぇ」
──そう、ですか。
「まあ、姿形も大切ですが、それよりも何よりも、第一に淫乱でなければなりませんね。いつでもペニスを欲しがって、股間をすぐにびちょびちょにするほどの。でも、欲しいのは、私のものだけ。他人のペニスを貰っても満足できなくて、いつだって私のペニスを欲しがるんです。私のペニスでしか達けないんです。それこそ、昼も夜も、家の中でも外でも、一人でも、たくさんの衆目の前でも……いつでもね」
──ずいぶんといやらしい、恋人、ですね。
「ええ、私の好みとなるとそうなりますね。この私が貴重な愛情を注ぐべきであるのなら、それだけ私の好みに合わないと。まあ、そのために躾けるんですけど」
──どんな躾けを?
「もちろん、淫乱になるための躾です。ああ、外に出かけるなんて余裕はないですよ。まずは家の中で徹底的に躾けます。全身くまなく性感帯になるように、常に玩具で刺激を与えながら、ああ、媚薬も使って、とにかく感じまくる身体に仕上げます。自慰もフェラチオもイマラチオも上手にできるようにしますし、穴という穴も鍛えます。ふふっ、特にアナルには何でも受け容れられるように少しずつ太い張り型で広げて──そうですね、最終的には私の拳に悦ぶほどにしますよ。ああ、私の実家には素敵な肉体美のギリシャ風の彫像があるんですが、その腕は私より一回り太くて……握り拳のそれがちょうどいい位置にあるんです。あれを悦んで挿れられるくらいにならないとダメですねえ」
──ずいぶんと太いような気が……。
「そのくらい普通でしょう、淫乱ならば。まあ、敬一くんにはさせませんけどね。ガバガバになったら、遊ぶ楽しみが減りますから」
──はあ……、恋人では遊ばないのですか?
「ええ、恋人は私の秘書として一緒に行動して貰いますから。遊ぶ暇なんてないですよ。これでもとても忙しくて、敬一くんの遊ぶ時間を捻出するのが大変なんです」
──秘書?
「ええ、私は自分の不動産の店もありますが、実家の仕事も手伝っているんです。不動産系と銀行の系列を持つ家でして。まあ、私なんて顔つなぎの接待とか会議に顔を出すだけとか。会長の代わりに出るだけで良いのですが、鬱陶しい、脂ぎった男ばかり相手にしていると嫌気も出ますよ。まあ、そんな私のフォローをしてもらうわけです」
──それって、たとえば……どんな?
「もちろん、脂ぎった男に疲れた私の瞳や脳を癒してもらうんです、その淫乱な身体でね。いつでもどこでも、私が望めば、その身体を拓いて迎えてくれる。口も全部歯を抜いて入れ歯にしておきますからね、きゅうきゅう締め付ける素晴らしい穴になるでしょうね。アナルも常時埋め込んでいる張り型を外せば、すぐに受けられますし。ああ、その素晴らしい肢体に絡みつくのがたとえぶよぶよの肉の塊でも、けっこう私の目を楽しませてくれるんです」
──え……それって、他の者も相手にさせると?
「もちろんですよ。お客様の接待は、私の秘書の大切な仕事ですよ。お客様が望むのであれば、進んで尻を差し出して、その素晴らしい口でご奉仕するのは当然です」
──でも、さっき、あなたのペニスしか欲しがらないって……。
「ええ、欲しがるのは私のペニスだけです。でも、私が望めば誰にでも身体を拓く。何より、淫乱ですから、突っ込まれれば感じまくる身体です」
──けど、達けない……って言われましたよね?
「私の恋人なのに、他人に犯されて達くようでどうするんです? その程度で達くというのなら、ペニスの奥深くまで栓をして、カウパーすら出ないようにします」
──奴隷は、他人に犯されても良いのですか?
「うーん、普通の奴隷ならそうですねぇ。でも敬一くんはなんか可愛くて、ちょっと他人に渡すのは惜しいですねぇ。加藤さんと丹波くんに、三枝さんは、まあ敬一くんを躾けるのに手伝って貰った手前、貸してあげますけど……」
──射精させても?
「あんまり我慢させると身体に悪いですからね。それに達きまくる敬一くんも見ていて楽しいですよぉ」
──敬一くんは奴隷だから良いんですね、でも、恋人はダメなんですね。
「もちろん、私が許可したときだけです。なにしろ、恋人の身体を悦ばせるのも、そのタイミングをきちんと計算して、計画しますからね。いつでもってのはダメです。だって、我慢に我慢を重ねて、限界の最高のタイミングで一回。素晴らしい快楽に浸れるはずです。淫乱な恋人には私からの最高の贈り物になるでしょう。だって、敬一くんもとっても悦んでくれるんですよ、あんなに達きまくっている敬一くんでも、ですよ。だから恋人の射精は、ほんとに計画的にしたいとおもっているんです」
──えっと例えば、どのくらいの頻度ですか?
「ああ、二週間に一回です。タイミングが悪いと、もう少し伸びることも」
──その間、接待はずっと?
「ええ、ほぼ毎日。何しろ、付き合いが広いものですから。貸し出しもしますし」
──なるほど、ずいぶんと忙しそうですね。
「ええ、私と会わずに済む一日も多いですよ。まあ、私がしたくなったら敬一くんで遊べば良いわけですし」
──ははあ……それで、その敬一くんはピアスとか付けていますけど、恋人にはアクセサリーを贈るんですか?
「ええ。人前に出しますからね、私にふさわしい物を付けさせます。そうですねぇ、敬一くんもとても悦ぶ菊花のニップルピアスは恋人も悦んでますよ。もっともあれより重くて大きいですから、乳首がひどく引っ張られていますけど。それに、鎖を付けてペニスのピアスと繋げています。短いので、背筋を伸ばして立ったときに両方が引っ張られるから刺激が常に与えられて、ずいぶんと良いようですよ。尿道もね、さっきも言ったように漏れないようにいつもバイブも埋め込んでいるんです。アナルは簡単には抜けないようにくびれた形のストッパーを取り付けて、腰ベルトで押さえて。ああ、そろそろ今の恋人には刺青をいれようと思うんです。背中だけでなくて、陰部も、乳首も。そうですねぇ、素晴らしい和彫りの名手がいるので、彼に……まるでいつでもバラの棘だらけのの巨大な蔓に犯されているような百花繚乱絵巻を彫って貰いましょう。アナルにバイブを嵌めたまま、敏感な肌に彫られてると素敵な痛みらしいですよ。その和彫り職人が言っていました。マゾっけのある彼は悦ぶでしょうね」
──バラと蔓、ですか……えっとそれは、敬一くんには?
「え、敬一くんにはもったいないですからしません。するにしても、よっく考えてしないとねえ。あの綺麗な肌は、何もないからこそ価値があるんだって判ったんですよ、先日の子豚の産卵ごっこでね。あの背中が波打ち悶えて、ほんとうに素晴らしかったですから」
──そうですか。
「敬一くんはね、真面目に仕事しているときでもちょっとムラってくるほど可愛いですよね。一生懸命で、私に犯されている時とのあの表情のギャップが堪りません。会社に乗り込んで押し倒したくなるのを我慢しているんですよ、これでも」
──我慢……奴隷にですか?
「敬一くんは良い奴隷ですからね、だからご褒美に仕事させてあげているんです。私は約束は守りますから」
──恋人のご褒美は、無いんですか?
「恋人は、私の愛情が何よりのご褒美でしょう? それ以外何がいるというんです? 私が愛して与えている全てが元からご褒美なのだか、何も特別なものは必要ないでしょう」
──つまり、恋人に与える行為全てが、ご褒美、と?
「そうです。でも、敬一くんは私が与える全てが褒美って訳ではないですからね。だから、別に褒美を上げているんです」
──じゃあ、敬一くんにいろいろしているのは、褒美じゃないって事は……。
「あれは、奴隷遊びの一環です。私は楽しんでいますが、奴隷にしてみればそればっかりじゃないってことは判っていますよ」
──ああ、判っていらっしゃる?
「ええ、苦しみのたうつ姿もありますからねぇ、まあ、それが楽しいって言っている私の奴隷で良いって言うのだから、しょうがないでしょう? もっとも簡単に壊れては困るので、良い奴隷でいる限りは、ちゃんといろいろとご褒美を上げているんです」
──では、恋人がいても、奴隷は……捨てたりは……。
「まさかっ、あんな可愛い奴隷は次いつ手に入るか判らないのに。恋人はどうとでもなるかも知れませんが、あれだけ相性が良い奴隷はなかなか手に入らないのを知っていますから。よっぽどのことがない限り、捨てることはしません」
──恋人って、簡単に手に入る代物ですか?
「恋人は躾ければどうとでもなる代物でしょう? 何しろ、私の財産に目が眩んで、何でもするから恋人にしてくれっていう連中は大勢いますから。もっとも、私の恋人は長続きしないので有名でして、それでも、たくさんいるんですよ、恋人候補は。だから、簡単です」
──つまり奴隷の方が入手が難しいんですね。
「ええ、玩具として遊ぶ奴隷だから、念入りに選びますからね。あなただって趣味の物に対しては、妥協なんてしないでしょう? それと同じです」
──ええ……と、私は恋人にもきっと妥協しませんけど……。
「そうですか? 勝手な愛情を押しつけられて嫌になりませんか?」
──……。
「まあ嫌になったら別れれば良いので、変えるのは簡単ですよ」
──………………。
「ああ、そろそろ敬一くんが帰る頃だから食事の準備をしないと……それでは」
 時間に気が付いた途端に、笑みを見せた鈴木が、いそいそと帰り支度を始める。
──……………………その姿は、まるで……。
「ああ、ちょっと」
 室内の電話で相手を呼び出すと、きっちりとスーツを着込んだ青年が部屋に入ってきた。隣室にいたようだが、紅潮した顔で、目は潤み、早い吐息を繰り返している。立っているのも辛いようで、がくがくと足が震えていた。
「お前、お隣の部屋にABC工業の会長が来られる時間です。あの方は気が早いから、もう来られて待っているかも。早く行きなさい。待たせては失礼です」
「……はい、かしこまりました」
 スーツ姿の彼は、今の鈴木の恋人だと言われている秘書だろう。けれど、そんな彼に対する鈴木の言葉はひどく冷たかった。
 深く頭を下げる彼は潤んだ瞳で鈴木を見やり、縋るようにしながらも小さく息を吐いて、よろよろと別室へと去っていく。その歩き方も何かを股間に挟んでいるかのように、がに股だった。
──……接待、ですか?
「ええ、あそこの会長さんは若い男をいたぶるのが大好きなドSですから、私の恋人にはもってこいの仕事です。ああ、彼にはこれこそがご褒美でしょうねぇ」
 くすくすと笑っているのに、それは口元だけで。
 けれど。
「久しぶりに良いカニが手に入ったんです。敬一くんが好きなんですよ、ですので、お先に失礼しますね」
 そう言った鈴木の表情は、一転してひどく和やかで楽しげなものになった。
「今日はね、久しぶりにゆっくりと楽しめるんで、いろいろと考えているんです」
 楽しげに、どこか軽い足取りで部屋を出て行く鈴木は、隣室から漏れ聞こえる殴打と悲鳴に見向きもしなくて。
『やあ……っ、ひぃっ……っ、もう、申し訳っ、あぁっぃぃぎっっ!!』
『売女のくせに待たせやがって。ほらほら、その尻を出せ、おいっ、このおっぱいとチンポの鎖を天井から吊せ』
『はい、会長っ。うわっ、なんか女よりでかい乳首していますねっ、ははっ、鞭打たれて、チンポぎんぎんですよ』
『ひっ、引っ張ったら……いやあ、千切れっ、ああぁ』
 どうやら相手が一人ではなかったらしい接待は、まだまだ始まったばかりで、長引く気配が濃厚だ。
──そういえば……聞き忘れたなあ、恋人はどこに住まわせているのか。
 少なくとも、敬一が住まうあの家ではないはずで。
 そして、超高級と呼ばれるこのホテルでも無いだろうし。
 


「恋人? ああ、実家に恋人の部屋があります。仕事の時はそこから送迎させています。私が行けなくても、世話係がつきっきりで私が与えたスケジュール通りに生活させていますから。私がいない時でも秘書としての仕事が無くなることはありませんし。まあ、彼が働いてくれるから、その分、私はこうやって敬一くんと遊べるわけで。これでも恋人には感謝はしているんですよ。だから、別れることになったら、ちゃんと後の面倒も見てあげています。ふふっ、過去の恋人達もみんな、私の知り合いの店で、楽しい日々を送っているはずですよ」
 大きなあくびと共に教えてくれた鈴木は、疲れ果てて深い眠りについている敬一の身体を抱きしめたまま、穏やかなまどろみの中に落ちていった。

【了】